解説
私のオフィスの近くに、よく食事をする飲食店Aがあります。
そのお店は、メニューを見ればパスタやピザがあったり、ワインが数種類あったりするので、イタリアンレストランっぽいお店です。
でも、実際にはカフェとして営業しているし、やってくるお客さんもカフェとして利用している人ばかりです。
その証拠に、お客さんは店に入るなり、自分で勝手に空いている席を探して座ります。
もし仮にイタリアンレストランとして認識しているなら、きっとスタッフが席に案内してくれるまで入口で待つはずです。
つまり、日本人のお客さんにとって、飲食店Aは「カフェ」として存在しているのです。
ところが、アメリカからやってきた数人の友人と飲食店Aに行ったときのことです。
彼らはお店に入っても、入口に立ったまま、席につこうとしません。「どうして席につかないの?」と私が聞くと、こう言い返してきました。
「ここはレストランだよね。レストランならば、ホールスタッフが席に案内してくれるはずでしょ?スタッフがなかなか来ないから、待っているだけだよ」
つまり、飲食店Aは、アメリカの友人たちにとっては、「イタリアンレストラン」として存在していたのです。
飲食店Aは、ある日突然「カフェ」から「イタリアンレストラン」に変わってしまったのです。
といっても、内装やメニュー、スタッフの接客スタイルなどは何も変わっていません。お店は以前のままです。
では、いったい何が変わったのでしょうか?飲食店Aを、なぜ日本人はカフェだと認識し、アメリカの友人たちはイタリアンレストランだと認識したのでしょうか?
実はこの答えに、物理空間を自由自在に変えるための秘密が隠されています。
物理空間を直接的に変えるのは大変です。カフェだった空間をイタリアンレストランにするためには、新しいメニューを考案したり、インテリアを改装したり、スタッフのトレーニングをしたり、やらなければならないことはたくさんあります。
ところが、情報空間から働きかければ、カフェはあっという間にイタリアンレストランに変わります。
飲食店Aは、いうなればただの空間です。その空間を人々がどのように認識するかによって、空間の存在が決まるのです。
あなたの認識では、カフェはどのような空間ですか?イタリアンレストランはどのような空間ですか?
それぞれ三つぐらい考えてみてください。……思いつきましたか。 それがあなたにとっての「カフェの情報場」「イタリアンレストランの情報場」です。
あなたが考えたのと同じように、多くの日本人の認識には、「カフェはこういうところ」という情報場と、「イタリアンレストランはこういうところ」という情報場が、それぞれ存在しています。
わかりやすいように、記号を使って説明しましょう。
日本人の認識には、カフェはa、b、cという条件を満たしている空間 イタリアンレストランはx、y、zという条件を満たしている空間という情報場があるとします。
それぞれの情報場は、ほとんどの日本人に共有されているため、日本人にとっての常識となり、ただの空間である飲食店Aに入った日本人は、
「a、b、cを満たしているから、飲食店Aはカフェだ」「x、y、zを満たしているから、飲食店Aはイタリアンレストランだ」と瞬時に認識します。
こうして飲食店Aはカフェ(もしくはイタリアンレストラン)として物理場に現れるのです。
飲食店Aがカフェであるかイタリアンレストランであるかは、物理場が備えている機能ではなく、日本人が共有する情報によって決まるのです。
では、仮に飲食店Aがa、b、cを満たしており、「カフェ」として存在していたとします。
この飲食店Aを、イタリアンレストランに変えるにはどうすればいいでしょうか。
答えは簡単です。
情報場の因果関係を変えてしまえばいいのです。自分が認識している情報場の因果関係を書き変えて、カフェとはx、y、zという条件を満たしている空間、レストランとはa、b、cという条件を満たしている空間、とすれば、a、b、cを満たし飲食店Aは「イタリアンレストラン」として存在することになります。
実際はそれほど単純ではありませんが、仕組みはこういうことです。
自分がもっている情報場によって、物理場が定められています。
自分の情報場が書き変えられれば、自分や世界の認識が変わり、認識が変わることで自分や世界の物理空間におけるあり方も変わります。
情報場の因果関係が、物理場を作り上げているのです。
