たとえ他人にどう思われても

砂漠での苦労を経験したあとで、自分の才能を活かす「すきま」を発見して成功をおさめた人の話はたくさんあります。

IBMの会長ルー・ガースナーの例を見てみましょう。

1993年、IBMは初めて社外の人材をトップに迎えた。それがルー・ガースナーです。

彼は五年間で、かつて優良企業の典型だった会社を危機から救出しました。そして1999年には、彼の大胆な経営改革によってIBMの市場価値は400億ドル以上にまでなりました。

しかし、ガースナーはつねにバラ色の仕事人生を送ってきたわけではありません。

ハーバード・ビジネススクールを卒業後、一流のコンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。

みるみる頭角を現し、28歳で社内で最年少の管理職に昇格、さらに33歳で最年少の取締役の一人となりました。

1978年、マッキンゼーを退社して、自分が担当していた顧客だったアメリカン・エキスプレスに移りました。 ここから彼の勢いは下り坂になります。

アメリカン・エキスプレスでは、クレジットカード事業部を率いる責任者に就任しました。

当時、リボルビング払いを扱う他社のカードに押されてすでに業績は下がり始めていました。

彼は業務改革をおこなって、ある程度の成功をおさめることはできたが、独自の根強い企業風土や「ステイタス」カードという世間一般のイメージが自分には大変なストレスだと感じていました。

そして1981年にシャーソン証券会社を買収合併し、新しいエグゼクティヴが一気に増えたことで、ガースナーは約束されていた経営トップのポジションから遠ざけられてしまいます。

1980年代の大半はガースナーにとって苦悩の時期で、望んでいた成功を実現できずにいました。

結局トップの座に就くことはできないまま、1987年、彼は勝負に出ました。

当時経営不振に苦しんでいたユナイテッド・エアラインのCEOに就任しました。

しかし業績は振るいませんでした。ユナイテッド内部の意見によれば、彼に会社を立て直す力量があるかどうか、その手腕に対して社員たちはあまり信頼を寄せていなかった、といいます。

1989年、彼は再び思い切った行動に出ます。

現場の辞任を届け出た翌日、RJR ナビスコの社長に就任。ここでまた、彼は自分がのっぴきならない状況にいることを知ります。

RJR ナビスコは250億ドルで買収されたあとで、借入資本の負債を抱えており、資本拡大する余裕などはほとんど残されていませんでした。

さらに悪いことに、一番のライバル、フィリップ・モリスがマルボロの値下げをし、タバコの価格競争で収益は悪化、会社の株価も下落しました。

注目してほしいのは、アメリカン・エキスプレスやRJRにいたころのガースナーが、マッキンゼー時代のやり手のルーキーとしても、あるいは現在の敏腕CEOとしても知られていなかったという点です。

彼にはつらい年月で、公私ともに問題が絶えませんでした。

しかしその結果、ガースナーは独自の経営スタイルを築き上げ、それがちょうどIBMが必要としていたものと一致しました。

彼は教科書で習うような経営スタイルなど意に介さない。その手法はダイレクトで、戦略的で、目標が明確です。

社交的なことに時間を費やしたりはせず、同業者との「ネットワーク」を築くこともほとんどありません。

社員の労をねぎらうような言葉は口にせず、優れた業績をあげた社員には褒め言葉のかわりに相応のボーナスを与えました。

他の経営陣は彼の手腕を認めているが、自分自身を売り込むとか自社製品を売り込むといった点ではかなり力不足だと評しています。

ガースナーはIBMのこれまでの経営者とはまったく違う。それでもIBMが必要とするのは彼のような経営者だと、ほぼ全員が口を揃えます。

IBMに来る前の「砂漠」の時期に、ガースナーは自分の才能をよりどころにすることを学び、それが今の輝かしい成功を支えています。

彼のトレードマークともいえる自身と、不安に惑わされずに難しい決定を下す決断力を身につけたのはその時期でした。

そして砂漠から脱出したとき、キャリアの最高峰に位置する仕事をこなす準備ができていました。

当初は彼の能力を疑う声もあったが、大方の予想に反して完璧な実績を上げたのは、砂漠にいるあいだに準備を整えたからです。

ガースナーの例でわかるように、自分の能力への確固たる自信だけが成功をもたらします。

たとえ他人にどう思われようと、自分の人生の使命をまっとうしなければならない。

天職をきわめることで初めて成功を手にできる。

この教訓を学ばないうちは、まだ砂漠から抜け出すことはできません。

この段階を踏んでようやく自分の潜在能力を最大限に発揮できるようになります。

人生における砂漠の時期は孤独で過酷な試練に思えるでしょう。

もがき苦しみながら、迫り来る難題に挑戦し、不安感に立ち向かわなければなりません。

不安を押しのけて自分を信じようという意志を持つまでは、砂漠から脱出することはできないし、人生の使命を果たすために必要な準備も整っていないのです。

⭐️ 自分の能力への確固たる自信だけが、あなたに成功をもたらす。