目次
不変資本と可変資本
生産のプロセスに使われる原材料と道具は、生産過程で価値が変わることはありません。
資本の中で、価値が不変な要素を「不変資本」と呼びます。
反面、資本の他の要素、労働力は、生産プロセスの過程で価値が変わります。
労働力は、自分の価値を生み出した後、剰余価値を生み出します。 そして剰余価値は状況によって可変的です。それを「可変資本」と呼びます。
農家が種を買って、それよりずっと多い数の穀物を作り出すように、資本家は労働の種、すなわち労働力を買って、それからずっと高い価値の商品を作ります。
労働の種とは、労働自体ではなく、労働することができる潜在能力です。
剰余価値率
資本は、生産手段に投資された不変資本と、労働力に投資された可変資本、2つの要素で構成されています。
500万円の資本があり、400万円を不変資本に、100万円を可変資本に投資したとします。そしてその結果、200万円の剰余価値が増えたとします。
すると、元の資産は500万円から700万円に増加したことになります。 この場合、100万円の労働力は、200万円の剰余価値を生み出しました。
剰余価値で可変資本を割った数値を、「剰余価値率」と呼びます。
剰余価値/可変資本=剰余価値率
剰余価値率は、資本が労働力を搾取する割合を正確に示します。
この場合、100万円の労働力(可変資本)が200万円の剰余価値を生み出したから、剰余価値率は200%となります。
剰余労働と必要労働と資本蓄積
1日の賃金が3000円で、労働者が6時間に生み出す価値が3000円だとしましょう。
労働者が12時間働くと、前半の6時間の労働は資本家が投資した賃金である3000円を埋め合わせるために使われます。これを「必要労働」と呼びます。
そして、その後の労働で生み出す価値が剰余労働になります。
後半の6時間の労働は、完全に資本家のための労働です。これを「剰余労働」と呼びます。
剰余価値は、この剰余労働が実体化した結果です。
資本家の目的は、ひたすら剰余価値にあります。
こうして剰余労働の結果である剰余価値は、資本に再転化し資本を増大させていきます。 これを「資本蓄積」と呼びます。
協業の仕組み
協業が発生するのは、大勢の労働者が計画に基づいて一緒に働くときです。
同じプロセスで働く協業もあれば、違うプロセス間での協力も協業にあたります。
協業は労働プロセスの進行を早めることができます。
例えば、多くの石をはしごの上に運ぶ作業は、ひとりひとりが各々石を持って運ぶよりも、大勢が列を作って前の人から後ろの人へ、石を渡す流れ作業で早く済ませられます。
麦を収穫する作業のように、決まった時間に仕事を終えなければならない作業もそうです。
その作業がひとりで行った場合、1200時間かかる労働だとすれば、1日に12時間労働したとしても100日かかってします。それを100人がいれば12時間で終えることができます。
協業のシステムの下では全体の作業が、小さな、そして単純な労働に分割され、ひとつひとつが個々の労働者に割り当てられます。
そしていったん特定の作業を担当すると、なかなか別の作業が担当できません。その道のベテランを、あえて他の担当者に変える理由がないからです。
これはシステムとしては効率的ですが、一個人の労働者をゆっくりと組織の歯車に変える仕組みです。
部分労働
一生をかけて、ひとつの作業だけをする労働者は、速い速度と生産性を持ちます。
こうしてひとつの特殊な作業だけに特化した「部分労働者」は、他の仕事がまったくできない欠陥だらけの人ですが、協業システムの一部としては完璧なパーツになります。
そこで資本は、ひとつの作業に特化した労働者を、普通の労働者より好みます。
こうして作業はたくさんの専門分野に分化し、分業は深化していきます。
分業は資本主義以前から存在しました。にもかかわらず資本主義で分業が特別なのは、その目的が剰余価値と剰余価値率を増やすためだという点にあるからです。
現代の資本主義のシステムでは、人々が生み出した剰余価値は、その使用価値ではなく交換価値が意味を持ちます。
資本家は自分が雇ったサラリーマンたちが生み出した剰余価値を交換価値として享受します。
分業と隷属
分業システムにおいては、個々の仕事は単純になり、労働力の価値も安くなります。
複雑な技術を学ぶ必要もないし、労働力を維持するために必要な費用も安くなるからです。
こうして労働力の価値が安くなると、剰余価値が増大し、資本の利益になります。
資本家は、できるだけ多い剰余価値を生み出し、労働力を最大限まで利用したいから大量生産を志向します。
資本主義システムの分業は労働力の能力を分割するので、個人の精神的・肉体的能力は制限されていきます。
こうして労働者は自分の専門技術を使うために資本家に依存していくのです。
労働者の役割は剰余価値の生産
人は自分自身のために働くとき、すべてのことは自分でコントロールする必要があります。
しかし、分業システム下では他人にコントロールされるようになります。
資本主義的生産は、ただ商品を作り出すために行われるのではなく剰余価値を作り出すために行われます。
労働者は自分のために使用価値を生産するのではなく資本家のために剰余価値を生産します。
労働者は資本の自己増殖のために働いています。
社会の剰余価値
社会発展の程度は別にして、労働の生産性は物理的な条件に左右されます。
すなわち、労働の主体である人間の気質と自然環境です。
豊かな自然環境があれば人間が自身のために働かなければならない時間が少なくなります。
すると自分以外のために剰余価値を生み出す時間を確保できるから文明が発達します。 文明の胎動期にはそれが重要です。
古代エジプトで巨大な建築物を建てることができたのは、人口が多かったからだと考えがちですが実は違います。
エジプトは豊かな自然環境を持っていたから自分の生活を維持し、子供を育てるのに多くのコストを必要としなかったのです。そこで残った時間を使って、あのような巨大な建築物を建てることができたのです。
「世界四大文明」といえばエジプト文明、メソポタミア文明、インダス文明、黄河文明を指します。
これらの偉大な古代文明は、すべて暖かい川辺で誕生しました。そういうところに住む人々が特別優秀だったからではなく、個人が自分の生活を維持するために必要な努力が少なく社会のために働く余裕があったからと考えられます。
古代の暖かい国と寒い国の差は、生産性の差です。手を伸ばせば果物がある南国の方が食料を得るために吹雪の中で野獣と格闘しなければならない北国より食料が簡単に生産されます。南国の方が生産性が高いです。
現代社会では、その生産性が自然環境ではなくテクノロジーのレベルなどで決まります。
現代はテクノロジーで食料の生産はもちろんのこと、生活費用、養育費用も低く抑えられます。 現代人は比較的安い費用で生活を維持することができます。
そして、豊かな南国の古代人たちが残りの時間で皇帝のために働いたように、現代人たちは剰余労働で資本家の富を増やします。
可変資本の循環を社会的に考察する
資本の循環周期が短くなればなるほど、貨幣で投下した可変資本は、より素早く貨幣に再転化します。
だから資本の循環周期が短くなると投下した資本の規模に比べて資本家が得る剰余価値の量が相対的に大きくなります。
資本の循環時期が短ければ、このように剰余価値が増大するから同じ資本を投下しても生産の規模がどんどん拡大します。
生産の規模を維持したまま資本の循環周期が短くなると、より少ない労働で同じ量を生産することができるから可変資本への投資額は減ります。
もし生産して1年かけて売れる物であれば、雇っている労働者に支払う賃金の回収は1年後になります。
しかし生産したとたんに売れる物があれば、さっき労働者に支払った賃金を即座に回収することができます。
「貨幣で投下した可変資本はより素早く貨幣に再転化する」というのはそういう意味です。
そこで資本は自分の循環周期を短くするため、いろいろ努力します。
それは同じ労働力と生産手段でより多い剰余価値を生み出し、生産性を高める方法になります。
