お金は、商品の中でもとびきり特異な性質を持っている。すべての商品は使用価値と交換価値を併せ持っているが、お金は交換価値しか持っていない。
特に、貴金属と関係がなくなった現代の貨幣には、使用価値がまったく存在しない。物理的な性質だけを見れば、1万円札の紙幣ですら、ただの紙切れに過ぎない。
紙幣の価値は昔の黄金とは違って、実際の価値に基づいていない。 だが、皆がその紙に1万円の価値があることに同意している。実際の価値ではなく、「信用」に基づいている紙幣、これが「信用貨幣」である。
紙幣の登場は、銀行の登場と深い関係がある。 昔、お金として使われた黄金は高価だったので、安全な場所に保管しなければならなかった。
そこで自分の金庫を提供し、黄金を保管する人物が現れた。彼は少々の保管料をもらって他人の黄金を金庫に保管してあげた。 これが銀行の起源である。
銀行は、黄金を保管した人には預かり証を発行した。それを持って銀行に行くと、銀行はそれに当たる黄金を金庫から取り出す。 こうなってくると、預かり証は黄金と同じ価値を持つ。紙だから黄金を持ち運ぶよりはるかに楽だ。 これが紙幣の起源である。
金本位制下の貨幣は、このように「貨幣が黄金の預かり証の役割をする」ということを意味する。
銀行では、保管する黄金が増えてくると、これを放っておくのはもったいないと感じ、預け主に内緒でお金が必要な人に紙幣(預かり証)を貸し、利子を得る貸し金業を始めた。
こうして銀行の持ち主はどんどんお金持ちになった。それを知った預け主たちは、勝手に顧客の黄金を運用してお金を稼ぐ銀行に腹が立ったことだろう。
しかし、それはお金で解決された。 貸し金業で稼いだ利益の一部を、黄金を預けた顧客に還元するようにした。こうすれば保管料を支払う必要もないし、逆に黄金を預けるだけで利子をもらってお金を増やすことができる。
銀行は、お金を借りる人から利子をもらい、お金を預ける人には、それより低い利子を還元した。その差が銀行の収入になった。本格的な金融の始まり
やがて経済の規模がどんどん拡大するにつれ、世界全体の富と比べて、採掘される黄金の量が不足し始めた。 もはや全世界のGDPは、地球全体の黄金の埋蔵量より価値が高くなっている。
「紙幣が金の預かり証である」という「金本位制」はこうして崩壊した。 というわけで、今私たちが “お金”と呼ぶものは、黄金とは関係がない、社会的な同意の上で作られた人為的な概念である。
銀行のサーバーに記録された数値が現代のお金の実体 目に見える紙幣は全体の通貨のごく一部に過ぎない。
目に見えない概念が、我々の生活を支配している