情動は行動や表情にあらわれる。 また、心拍数や血圧、呼吸数、発汗などの生理的機能は、情動を推し量るうえで重要かつ客観的な指標である。
情動が発動しているときには、それが喜びのようなポジティブなものでも、逆に恐怖のようなネガティブなものでも、多くの場合は、自律神経系の「交感神経」と呼ばれるシステムの機能を上昇させる。それが情動にともなう全身の変化を生む
自律神経系にはほかに、おもに安静にしているときに働く「副交感神経」があるが、強い情動が発動しているときには交感神経の働きが活発になる。
交感神経系は心拍数の上昇、瞳孔の散大、血圧の上昇や発汗など、全身にさまざまな変化をきたす。いわば交感神経は身体を「臨戦態勢」にもっていくためのものである。
強い情動が発動しているときには、同時に、内分泌系にも大きな変化があらわれる。 それが喜びのようなポジティブなものでも、恐怖のようなネガティブなものでも、「ストレス応答」と呼ばれる一連の反応が内分泌系に起こる。
まず、脳の深部に存在する視床下部からコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)というホルモンが分泌され、これが下垂体前葉に働きかけて、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)というホルモンが血液中に分泌される。
ACTHは副腎皮質に働きかけ、糖質コルチコイドというストレスに対抗するためのホルモン(ステロイドホルモン)を分泌させて、全身の機能、そして脳の機能や精神にも影響を与える。これがストレス応答である。
ストレスというと悪いもののようにとらえられがちだが、ストレス応答はポジティブな情動でも起こる。嬉しいこともストレスの一種なのだ。
このように情動は、自律神経系および内分泌系を介して、全身の機能に大きな影響を与える。むしろ、全身の応答を含めたものが「情動」という概念であると考えたほうがいい。
情動とは、行動の変化と全身の生理的な変化から、対象となる動物やヒトの感情を客観的かつ科学的に推定したものであるとも言える。
しかし、感情は情動よりも上位の概念であるとする考え方もある。 例えばリスボン大学の神経科学者アントニオ・ダマシオは、「感情は情動よりも高次の機能である」としている。
ダマシオは、感情とは、思考や認知などと同様に、大脳皮質が関与する部分がより大きい、より複雑な機能であると考えた。
ダマシオのいう感情は、情動の動きにも影響を受けて生じる、より上位の、内的な精神世界に属するものであるともいえる。ここに、前頭前野による自分の情動の「認知」が関与してくる。 つまり、身体反応をも含めた自らの状態を認知することにより、感情が生まれるともいえる。
ある情動における精神状態を切り取って示す言葉として「情動体験」というものがある。
これは、情動にともなう主観的かつ精神的な体験を意味しており、感情をよりシンプルに表現したものと言ってもよい。一方で、情動にともなう行動の変化や全身の生理的な変化を「情動表出」という。
すなわち情動とは、「情動体験」と「情動表出」とを足しあわせたものということになる。