ジャン=ジャック・ルソー(1712- 78)はスイスの優れた思想家で作家だった。
ルソーは本当の宗教は儀式からでなく心からくると信じた。 しかし彼の政治思想は大きなトラブルを起こした。
先駆のトマス・ホッブズやジョン・ロックと並びルソーは、近代的な「社会契約(Social Contract)説」の論理を提唱した主要な哲学者の一人である。
まず、1755年に発表した『人間不平等起源論』において、自然状態と、理性による社会化について論じた。ホッブズの自然状態論を批判し、ホッブズの論じているような、人々が互いに道徳的関係を有して闘争状態に陥る自然状態はすでに社会状態であって自然状態ではないとした。
ルソーは、あくまでも「仮定」としつつも、あらゆる道徳的関係(社会性)がなく、理性を持たない野生の人(自然人)が他者を認識することもなく孤立して存在している状態(孤独と自由)を自然状態として論じた。無論、そこには家族などの社会もない。
理性によって人々が道徳的諸関係を結び、理性的で文明的な諸集団に所属することによって、その抑圧による不自由と不平等の広がる社会状態が訪れたとして、社会状態を規定する(「堕落」)。
自然状態の自由と平和を好意的に描き、社会状態を堕落した状態と捉えるが、もはや人間はふたたび文明を捨てて自然に戻ることができないということを認めて思弁を進める。
1762年に発表した『社会契約論』において、社会契約と一般意志なる意志による政治社会の理想を論じた。
社会契約が今後の理想として説かれる点で、ルソーの社会契約説は、イギリスにおいて現状の政治社会がどのような目的の社会契約によって形成されたのかについて研究したホッブズやロックの社会契約説と異なる。
『社会契約論』においてルソーは、「一般意志」は、単純な「特殊意志(個人の意志)」の和(全体意志)ではないが、そのそれぞれの「特殊意志」から、相殺しあう過不足を除けば、「相違の総和」としての「一般意志」が残るのだと説明している。